今日読んだ紙媒体–影の車

読んでも読んでも尽きない松本清張。

短編集で、他の文庫で一度読んだものも2つほど入っていました。

オチがふんわりした作品が独特で好きです。例えば。

同世代の女性社員がほぼ全部結構退職したのに、独身のまま勤め続ける女性社員。仕事に熱心なわけでもなく、「働かず休まず」のポリシーで、最小限の仕事をしながらケチをつけられないよう注意深くやっている。同じ会社の社員に金利10%で金を貸している。あるとき、若い男性社員に金を貸したところ、男性社員は金を返さず、女性社員と遊びで付き合うようになる。ただし、女性社員があまりにブサイクで年増なため、この付き合いは隠していた。女性社員の方も、遊ばれていることは分かっているので、黙っている。

このあと、男性社員が女性社員を殺すのなら平凡な展開ですが・・・松本清張はそうはいかないところがいいのです。

この男性社員は、あちこちで散財しており、結局会社のカネを800万盗んで逃げ、行方不明になる。一方、女性社員はそのころから自宅に鉢植えをたくさん買うようになる。また、自宅のアパートに特注の豪華な風呂を作っていたにもかかわらず、会社の風呂を使うようになる。1年後、女性社員は一戸建てを現金買いして、一人で引っ越す。そのとき、アパートで使っていた風呂桶に愛着があるからと、風呂桶を買い取っていく。それで話は終わりです。

つまり、こういうことでしょう。金を盗んだ男は、とりあえず女性社員のところに隠れた。ところが、女性社員は800万の金に気づき、資金回収のタイミングがきたと判断して男を殺し、風呂桶に土を入れて埋めてしまう。1年がかりで死体を骨だけにして、一戸建てを買って土や風呂桶を移動して処分する。ただし、このからくりは小説には書かれてはいません。

話の最後は、一戸建ての庭は、植物がよく育つ良い土だった、ということになっています。

トリックはともかく、この女性社員が、800万の金に気づいてあっさり男を殺してしまうところがなんとも味わい深いです。男を生かしたまま利用しようとは考えなかった、そのシビアな判断がなんとも。

影の車 (中公文庫)

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